いじめと不登校の関係性【文部科学省調査から】
文部科学省の調査によると、いじめの認知件数は年々増加傾向にあり、2023年には過去最多の73万2,568件に達したことが明らかになっています。
これは、単にいじめが増えているということではなく、いじめが「認知」されるようになった件数が増えているということも関係していると考えられます。
また、不登校も年々増えており、文部科学省が公表した「問題行動・不登校調査」(*出典1)では、全国の小中学校で2023年度に学校を30日以上欠席した不登校の児童生徒は前年度から4万7434人(15.7%)増の34万6482人となり、過去最多となりました。
いじめの認知件数と不登校児童生徒数はどちらも増加傾向にある一方で、文部科学省が発表したいじめが原因で不登校になった小・中学生の割合は1.3%にとどまっており、決して多いとは言えない数字です。
しかし、不登校経験のある小・中学生を対象に行われた別の調査では、いじめをきっかけに不登校となるケースも多いことが明らかになっており、いじめと不登校の関係性は無視できません。何より、少ないから問題ではない、ということでは決してありませんし、統計には表されないいじめや「いじり」なども少なくはないと考えられます。
いじめが原因の不登校の実態
いじめの認知件数の増加にはどういった背景があるのでしょうか。ここからは、いじめの認知件数が増えている理由について解説します。
【理由1】いじめに対する認識の変化
1つ目の理由として、時代とともにいじめに対する認識が変わってきたことが挙げられます。
かつては「そんなことくらいで」と見過ごされたり、わかってもらえずに我慢せざるを得なかったり、「いじめられる方にも原因がある」と抑圧されたり、隠されていたいじめが、いじめに対する認識の変化とともに「いじめ」として認知され、問題として認識されるようになってきていると考えられます。
自治体やとある校長先生などのスタンスとしても「いじめの認知件数は多い方がいい」としていることもあります。
いじめはなくなるものではない、その代わりに起きてしまったら早めに気づいて対処をする必要がある、だからこそ、この認知している数値が増えていることは、早めに気付けていることで、非常に重要な数値として捉えている見方もあるわけです。
「うちの学校(自治体)はいじめがゼロである」と認識をしていると、あるかもしれないいじめを見過ごしてしまう可能性もあります。このようにいじめへの認識が少しずつアップデートしている側面もあります。
【理由2】いじめ問題に対する取り組みの強化
また、いじめ問題に対する取り組みの強化も、いじめの認知件数が増加している理由の一つと考えられます。
たとえば、文部科学省の取り組みとして、以下のような取り組みが実施されています。
・スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの配置の充実
・SNS等を活用した相談事業
・24時間子供SOSダイヤルの周知
・文部科学省職員によるいじめ防止対策推進法等に関する行政説明
・いじめ防止対策に関する関係府省連絡会議の実施
(*出典2)文部科学省|いじめ対策の推進について
【理由3】ネットの普及によるいじめの形態の多様化
相談の窓口だけではなく、インターネットの普及やスマートフォンの利用、SNSの活用などから、いじめの形態が多様化していることもいじめの認知件数が増えていることにつながるかもしれません。
文部科学省のいじめの調査でも、パソコンや携帯電話等を使ったいじめ・嫌がらせの件数が年々増えていると報告されています。
具体的には、LINEグループを一人だけ仲間外れにしたり、その人を除いたグループLINEなどで悪口を言い合ったり、特定の子が写っている写真を加工して仲間内で拡散したり、LINEのやりとりを意図的にスクリーンショットして馬鹿にするようなトラブルは日常的に起きています。また、一緒にオンラインでゲームをやって喧嘩のようになったやりとりから学校での嫌がらせに発展することもあります。学校ではなく帰宅後のオンライン上でのやりとりから翌日の登校を怖がって嫌がるお子さんも少なくはありません。
このようにオンライン上でのトラブルが原因のいじめなども少なくありませんが、証拠として残る分、他の子からの報告でトラブルに気づくことができたり、認識しやすくなっている面があるかもしれません。
いじめによる不登校への文科省の対応
いじめ問題は、文科省も重点的に取り組んでいる課題です。文科省では、いじめによる不登校を防ぐための対策や、すでに不登校状態にあるお子さんの支援に向けたさまざまな施策を実施しています。
文科省が行っている具体的な対応について解説します。
いじめ防止対策推進法の施行
文科省は、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」に基づき、学校や教育委員会にいじめへの積極的な対応を求めています。
この法律では、いじめが原因でお子さんが不登校や精神的苦痛を受けることを防ぐため、以下のような施策を進めています。
・学校で、いじめ防止のための指導や啓発活動を徹底
・いじめを受けた子どもへの支援計画の策定
・第三者委員会の設置によるいじめ事案の公平な調査
いじめ対策チームの設置
文科省では、教育現場でいじめ問題に迅速に対応するため、各学校にいじめ対策チームを設置することを推奨しています。このチームは以下の役割を担います。
・いじめの早期発見
・当事者や保護者との連携
・専門家の意見を取り入れた適切な対応
不登校のお子さんへの学びの機会確保
いじめが原因で不登校となったお子さんが学びを継続できるように、文科省では次のような施策を展開しています。
・フリースクールやオンライン学習の推進
・学習支援や心理的サポートを提供する「教育支援センター(適応指導教室)」の整備
・個別最適な学びの実現
お子さんの状況に合わせた学習プランを提供し、自己肯定感を高める取り組みを実施
子どもと保護者向けの相談窓口
いじめや不登校に悩むお子さんや保護者が気軽に相談できるように、文科省では以下の窓口を整備しています。
・24時間子どもSOSダイヤル(0120-0-78310)
・教育委員会や自治体による相談窓口(地域ごとに設置された窓口で、具体的な相談や支援策の提案を受けることができる)
いじめが不登校につながる理由
いじめはお子さんの心と体に大きな影響を与えます。ここでは、いじめが不登校に結びつく主な理由について解説します。
1. 心理的なストレスの蓄積
いじめを受けると、お子さんは日々の学校生活そのものがストレスの原因となります。
暴言や無視、身体的な暴力などが続くことで、以下のような心理状態に陥りやすくなります。
- 自己否定感の増加
「自分は価値がない」と感じ、自己肯定感を失ってしまう。 - 強い不安や恐怖心
いじめの加害者と顔を合わせるだけで恐怖を感じるようになる。 - 学校への拒否反応
教室に行くこと自体が苦痛となり、「学校に行きたくない」という気持ちが高まる。
2. 居場所の喪失感
いじめが続くと、お子さんは学校という場が「安心できる場所」ではなくなります。
友人関係が崩れたり、孤立感を深めたりすることで、以下のような状況に陥ることがあります。
- 孤立感の増大
仲間外れや無視をされることで、自分の存在が否定されているように感じる。 - 大人への不信感
教師や親にいじめを相談しても「解決してくれない」と思い、周囲の大人に対する信頼を失う。
3. 身体的な影響
いじめによるストレスが蓄積すると、心だけでなく体にも影響が及びます。
以下のような身体的な不調が現れることがあります。
- 頭痛や腹痛、倦怠感
ストレス反応として、身体に症状が出ることがある。 - 睡眠障害
夜になるといじめを思い出し、眠れなくなる。 - 食欲不振
精神的な負担が大きく、食事が喉を通らなくなる。
4. 誰にも相談できない孤独
いじめを受けているお子さんの多くは、恥ずかしさや「親を心配させたくない」といった思いから、いじめの事実を隠してしまうことがあります。
相談できない状況が続くと、孤独感が深まり、不登校への道筋が作られてしまいます。
5. 加害者との接触への恐怖
学校に行けば、必ずいじめをしている相手と顔を合わせることになります。この「恐怖心」が不登校の直接的な引き金となるケースも多いです。
特に、以下のような状況では、学校に行くこと自体が子どもにとって耐えられないものとなります。
- 次は何をされるか分からないという不安
- 「仕返しをされるのではないか」という恐怖
いじめが不登校につながるのは、心と体の安全が脅かされ、学校が「安心できる場所」でなくなるためです。
そのため、保護者や教師がいち早くお子さんの変化に気づき、適切な対応を取ることが重要です。
いじめによる不登校が子どもに与える影響
いじめが原因で不登校になると、お子さんの心や体、社会的な関係に深刻な影響を及ぼします。長期間にわたると、その影響はさらに深刻になり、将来的な成長や人間関係にも影響を及ぼす可能性があります。ここでは、いじめによる不登校がお子さんに与える主な影響について詳しく解説します。
1. 心理的な影響
いじめを受け続けることで、お子さんは大きな精神的ストレスを抱えます。以下のような状態が見られることがあります。
自己肯定感の低下
「自分は価値のない存在だ」「何をしても無駄だ」と感じ、自信を失う。
不安や恐怖の増大
他者との関わりに対する恐怖心が強まり、新しい環境に適応しづらくなる。
抑うつ状態
気分が落ち込み、何をするにも意欲が湧かなくなる。
対人関係の不信感
他人に対して警戒心を持ち、人間関係を築くことが難しくなる。
2. 身体的な影響
心のストレスは、身体にもさまざまな影響を与えます。
体調不良の頻発
頭痛、腹痛、吐き気、めまいなどの症状が現れ、登校しようとすると悪化することもある。
睡眠障害
不安から寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりする。
食欲の低下または過食
ストレスにより食事のリズムが乱れ、体調が悪化することがある。
3. 学業・将来への影響
学校に行けなくなることで、学習機会が減少し、将来的な選択肢が狭まる可能性があります。
学習の遅れ
授業に参加できないことで学習の遅れが生じ、さらに登校へのハードルが高くなる。
進学や就職への影響
学歴や人間関係の構築に影響を及ぼし、将来の進路選択が限られることがある。
4. 社会的な影響
いじめによる不登校が長引くと、社会との関わりが減少し、孤立するリスクが高まります。
友人関係の喪失
学校に行かないことで友人と疎遠になり、孤独を感じやすくなる。
社会性の低下
人と接する機会が減り、コミュニケーション能力や協調性を学ぶ機会が少なくなる。
いじめによる不登校の前兆
お子さんが不登校状態になるまでにはいくつかの段階があり、その過程で、お子さんは何らかの前兆を示すことが多いとされます。
ここでは、いじめが原因で不登校になる際に、お子さんが示すとされるいくつかの前兆をご紹介します。
1. 学校のことを話すのをためらう
お子さんが学校でいじめを受けていると、学校での出来事や友達のことを話すのを避けるようになることがあります。
これは、いじめを受けたことで学校に対するネガティブなイメージが強まり、学校や友達について考えたくないと思うようになることもあるでしょうし、自分がいじめられているということを恥ずかしく思うことや、情けないと自分自身が考えてしまうようなこととも関係していると考えられます。
特に、これまで仲が良かった子と突然関係性が変わってしまった場合などは、仲が良かった子と遊ばなくなったり、その子との話題を出さなくなるようなこともあります。
2. 学校へ行くのを嫌がる
いじめが続き、学校への抵抗感がさらに強くなると、学校へ行くことを嫌がることが増える場合もあります。
「学校へ行くといじめられるかもしれない、でも、そのことは打ち明けられないし、もし打ち明けたら誰かに言ったことで余計にいじめが悪化するかもしれない」と考えて、気持ちが八方塞がりになってしまうこともあり、とにかく学校に行きたくないと拒否をすることもあります。
3. 頻繁な体調不良や精神的な不調
いじめによるストレスは、お子さんの体調や精神状態にも影響を及ぼします。
一例を挙げると、腹痛・頭痛などの身体的な不調を訴えるようになったり、あまりご飯を食べなくなるようなこともあります。
ひどい場合には、うつやパニック障害などの精神的な不調に繋がることもあります。
朝は症状を訴えるわりに、午後になるにつれて元気になっていくこともあるので、よく仮病といわれることもあります。
しかし、その瞬間はストレスから本当に頭やお腹が痛い症状に襲われています。その体調不良が仮病と言われてしまうと、余計に何も言えなくなってしまって、閉じこもってしまうことがあります。
お子さんが身体的あるいは精神的な不調を頻繁に訴えている場合、無理に学校に行かせるのではなく、まずはお子さんをしっかり休ませ、適切な体と心のケアをすることが大切です。
4. 学業成績の急激な低下
いじめによって悩みやストレスを抱えているお子さんは、急に成績が悪くなることもあります。
これまで成績が安定していたお子さんが急にテストの成績が下がったり、宿題や提出物を忘れることが増えたりと、学業に対する関心が低下しているような場合は注意が必要です。
5. 持ち物が紛失・破損することが多い
よくあるいじめの一例として、持ち物を盗まれたり、壊されたりといったことがあります。
そのため、お子さんの持ち物が頻繁に無くなったり、壊れたりする場合は、いじめが関係している可能性も考えられます。
学校の様子はなかなか保護者としては見えにくい状況であるので、必要に応じて学校や教職員にも様子を見守ってもらうこともひとつです。
6. 遅刻や早退が増えた
学校に行くのを嫌がるのと同様に、お子さんが遅刻・早退しがちになったりしている場合にも、いじめの可能性が考えられます。
遅刻や欠席が増えるというのは、学校で過ごす時間を最小限にしたいという気持ちの現れである場合があります。
また、登校や下校の時間をずらすことで、いじめを避けようとする意図もあるかもしれません。
中には、いつも通りに学校に行っていると思ったら、途中で寄り道などをしているようなことなどもあります。
このように、お子さんの遅刻や早退が増えた場合はいじめのサインの可能性もあるので、頭ごなしに怒ることから始めずに、話を聞くことも大切です。
7. 自分の部屋に閉じこもる時間が増えた
自分の部屋に閉じこもる時間が増えたという場合もいじめの前兆の場合があります。
自分だけの安全な場所に閉じこもりたいという願望もあるのかもしれません。
反抗期なども含めて、自分自身の世界観を確立していく中で家族と距離をおきたいようなこともあるので、必ずしもいじめとは限らないですが「変化」という観点では注意が必要です。
8. 理由をはっきり言わないアザやキズがある
いじめられているお子さんの中には、暴力を受けているケースもあります。また、暴力を受けている場合、お子さんの体にアザやキズができてしまう場合があります。
しかし、お子さんは恐怖心や恥ずかしさから、アザやキズの理由を言おうとしないことも多いものです。
暴力に発展している場合は、いじめがかなりエスカレートしている状況も考えられるので、お子さんの体にアザやキズを見つけた場合には、これ以上いじめがエスカレートしないようにするためにも、早めに対応することが大切です。
9. 寝つきが悪かったり、夜眠れなかったりする日が続く
学校などでいじめられていると、ストレスや恐怖心から、寝つきが悪かったり、夜眠れなかったりする日が続く場合があります。
また、夜中に目覚めてしまい、十分な睡眠が取れないといったことも起こります。
睡眠不足が続くと、体調が悪化するだけでなく、精神的な不調も引き起こすため、学校に行くことが難しくなり、不登校になってしまう可能性も高まります。
また、夜眠れない状況から、昼夜逆転になってしまって生活リズムが崩れてしまうようなことも少なくありません。
10. パソコンやスマホをいつも気にしている
近年のいじめは、学校の中だけでなく、インターネット上でのいじめ(ネットいじめ)も増えています。
お子さんがパソコンやスマホをいつも気にしている場合、ネットいじめを受けている可能性もあります。
ネットいじめは、その匿名性からどんどんエスカレートしていきやすいことにも注意が必要です。
そのため、お子さんがパソコンやスマホを確認する回数が増えてきたら、ネットいじめを受けていないかの事実確認を行い、状況に応じて適切な対応を取ることも大切です。
(*出典3)文部科学省|いじめのサイン発見シート
いじめで不登校になった子どものために親ができるサポートは?
いじめが原因でお子さんが不登校になった場合、保護者としては一刻も早くお子さんを助けたいと思うでしょう。
ここからは、いじめが原因で不登校になったお子さんを支えるために保護者としてできることについて考えていきましょう。
お子さんの気持ちへの共感を示す
まずは、お子さんの気持ちに寄り添い、共感を示すことが大切です。
いじめられているお子さんは、自分の気持ちを理解してもらえないと感じていることが多く、孤独感や不安な気持ちを抱えています。
そのような場合、保護者としては、お子さんが抱える悩みや苦しみに耳を傾け、お子さんの味方となる姿勢を示すことが大切です。
お子さんの話を聞く際は、お子さんを否定するような発言は避け、安心して話せるような雰囲気作りをすることも大切です。
保護者の立場からすると、甘いことを言っているように感じたり、解決できるようにと思ってこうすればいいというアドバイスを授けようとすることが多いのですが、まずは「最初は聴くに徹する」ことを意識してみてください。
アドバイスをするにしても「こんなアイディアもあるけど、どう思う?」など、そのアドバイスの実行者はお子さんであることを意識した声かけを行うと、一緒に作戦を考えてくれたり、うまくできない気持ちをわかってくれてありがたい、という気持ちになって心強い存在に感じることもあるかと思います。
お子さんを励ます声かけをする
お子さんを励ます声かけをすることも大切です。
いじめられていたお子さんは、自己肯定感が下がり、自分に自信を持てなくなっているケースも多いです。
そんなときは、お子さんの良いところや頑張っているところを見つけ、積極的に褒めてあげるようにしましょう。
その際には、無理矢理に褒める、というよりは、頑張っている過程をみているよというメッセージや、大変な状況でも頑張っていることの労いなどが大事かと思います。
「自分なんて存在している意味がない」ということを話すお子さんもいますが、学校は生活の多くを占める場所ではあるので重要ではありますが、その学校での生活はその子の全てではありません。
学校での生活に視野が狭くなっているような場合は、それだけが全てではないということを伝えてあげましょう。
特に、いじめの場合は、いかなる理由があったとしても、いじめを肯定するものではありません。いじめについては、している側が悪いということをしっかりと伝えてあげてください。
学校や教育関係者と連携し、いじめの解決を図る
学校でのいじめが原因で不登校になった場合、学校や教育関係者と連携して解決を図ることも重要です。
お子さんがいじめを受けていることやいじめが原因で不登校になっていることを学校側に伝え、具体的な対策を相談していきましょう。
また、お子さんの学校での様子についても詳しく聞くことで、家では見えないお子さんの様子を知ることで考えられる対応策などもあるかと思います。
お子さんの立場からすると、学校に伝えるのを嫌がる場合も少なくはありません。
その場合は、お子さんには内密ではあることを伝えた上で、担任の先生などに状況を共有するようなことで様子を見ることもあります。
初期段階であれば、学校で担任がそれとなく声をかけたり、グループ分けを考慮したりと環境調整を行うことで、いじめが発生する機会自体を減らすこともできたり、いじめが発展してしまっているような状況であれば、学校側としても抑止のための対応を取ることができます。
その意味でも、学校への連絡は、一度共有するだけではなくこまめに取り続けるようにしたほうが、進捗なども見えやすいでしょう。
あまり学校に頻繁に連絡をするのは迷惑になるのではないかと心配をされる保護者もいますが、その辺りの懸念も伝えつつ、お話をされると良いかもしれません。
そうすることで、学校の状況も把握できるため、不登校の場合には、学校復帰をすることになった場合などもスムーズに復帰しやすいです。
必要に応じて専門機関を利用する
学校側とうまく共有ができていればいいのですが、うまくいかない場合もあります。
その場合は、必要に応じていじめや不登校に関する専門機関を利用するのも良いでしょう。
専門機関に相談することで、お子さんのためにできることやいじめが原因の不登校に対する対応方法を広く知ることができます。
学校はひとつの国のようなもので、独自の雰囲気があったり、その年度ごとの教員やお子さんたちの様子でも雰囲気や暗黙的な事柄が変わってくることも多いです。
その視点に囚われてしまうことで苦しむこともあるので、客観的な視点の話を聴くだけでも、視野が広がり、解決の糸口が見える可能性もあります。
家庭内や学校だけではわからないこともあるため、必要に応じて専門機関に相談することも選択肢の一つとして検討してみてください。
以下は、いじめや不登校などの悩みを相談できる専門機関の例です。
みんなの人権110番 | TEL:0570-003-110全国の法務局・地方法務局で開設している、差別や虐待、ハラスメントなど、様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話です。 |
子どもの人権110番 | TEL:0120-007-110全国の法務局・地方法務局で開設している、いじめや不登校などの問題を相談できる専用相談電話です。お子さんだけでなく、保護者の方も利用できます。 |
24時間子供SOSダイヤル | TEL:0120-078-310文部科学省が開設している、いつでもどこでもいじめなどの問題を相談できる電話です。電話をかけると、原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関に接続されます。 |
チャイルドライン | TEL:0120-99-777718歳までのお子さんのための相談先です。 |
上記以外にも、私たちが運営するツナグバのように、民間が運営する相談場所も多数あります。
ツナグバには、お子さん・保護者が利用できるQ&A機能があります。匿名かつオンラインで相談できるので、何か相談したいことがある場合は活用してみてください。
子どもがいじめが原因の不登校になった場合に気をつけること
お子さんがいじめを受け、不登校になった場合、保護者としてどう対応すべきか悩むのは当然です。
焦って学校に戻そうとするのではなく、まずはお子さんの心のケアを優先し、安心できる環境を整えることが大切です。ここでは、保護者が気をつけるべきポイントについて解説します。
1. 無理に学校に行かせようとしない
「学校に行かないと将来困る」「みんな頑張っているのに」といった言葉をかけると、お子さんはさらに追い詰められてしまいます。
いじめによる不登校は、精神的なダメージが大きいため、まずはお子さんが安心できる環境を整え、回復を優先しましょう。
2. 加害者側との直接対話は慎重に
いじめた相手やその保護者に直接抗議するのは、感情的な対立を生む可能性があるため注意が必要です。学校や専門機関を通じて、冷静に対応しましょう。
3. 子どもの自己肯定感を取り戻す
いじめによって傷ついた自己肯定感を回復するために、以下のようなサポートを心がけましょう。
・「あなたは大切な存在だよ」と伝える
・好きなことに取り組ませる(趣味・習い事など)
・学校以外の居場所を見つける(フリースクールやオンライン学習など)
いじめ問題を解決するために保護者ができること
お子さんがいじめられ、不登校になってしまった場合、保護者は冷静に状況を見極め、適切な行動をとることが大切です。
ここでは、いじめ問題を解決するために保護者ができることを具体的に解説します。
1. お子さんの話をしっかり聞く
いじめを受けているお子さんは、強い不安や恐怖を抱えています。まずは、家族は味方であることを示し、お子さんが安心して話せる環境を作りましょう。
- 「どうして学校に行かないの?」と問い詰めるのではなく、「何か困っていることがあるなら話してね」と優しく声をかける
- 話を聞くときは途中で否定せず、最後までじっくり耳を傾ける
- お子さんが話しにくそうな場合は、無理に聞き出さず、メモや手紙など別の方法も検討する
お子さんが話したくないときは無理をせず、安心できる時間を作ることが大切です。
2. 学校と連携して対応を求める
いじめ問題を解決するためには、学校との連携が不可欠です。まずは担任の先生や学年主任、スクールカウンセラーに相談しましょう。
- 事実を冷静に伝え、学校側に対応を求める
- 相談の記録を残し、必要に応じて校長や教育委員会にも報告する
- 学校が適切な対応を取らない場合は、第三者機関(いじめ相談窓口、弁護士など)に相談する
学校とのやり取りは、できるだけメールや書面に残しておくと、後々の対応に役立ちます。
3. 第三者機関のサポートを活用する
いじめが深刻な場合や、学校が十分な対応をしてくれない場合は、第三者機関の支援を活用しましょう。
- いじめ相談窓口(文部科学省、教育委員会、民間団体など)
- スクールカウンセラーや心理相談員
- 弁護士や法律相談窓口(いじめが犯罪行為に該当する場合)
- フリースクールや適応指導教室(子どもの居場所づくり)
外部の専門家に相談することで、解決の糸口が見つかることもあります。
いじめによる不登校を経験した人の事例
いじめが原因で不登校になったお子さんは、それぞれ異なる困難を経験し、さまざまな道を歩んでいます。
しかし、適切なサポートを受けることで、新たな環境で自信を取り戻したり、前向きな人生を歩むケースも少なくありません。
実際にいじめによる不登校を経験した方の事例を紹介し、どのように乗り越えたのかを見ていきましょう。
事例1:小学生のAくん「フリースクールで自信を回復」
Aくんは、小学4年生のときにクラスメイトからの言葉の暴力が続き、次第に学校に行くことが怖くなりました。最初は「お腹が痛い」と訴えることが多くなり、やがて完全に登校を拒否するように。
保護者は担任の先生に相談しましたが、十分な対応が取られなかったため、教育委員会に相談したところ、地域のフリースクールを紹介されました。
そこでは同じような経験を持つお子さんが集まり、自由な雰囲気の中で学ぶことができました。
Aくんは笑顔を取り戻し、自分のペースで学習を進めながら、少しずつ人と関わることに慣れていきました。現在は通信制の中学校への進学を考えています。
ポイント
・ 学校だけにこだわらず、新しい学びの場を見つける
・お子さんの気持ちを尊重し、焦らずに対応する
事例2:中学生のBさん「カウンセリングを受けて自分を取り戻す」
Bさんは中学2年生のときに友人関係のトラブルからいじめを受け、学校内で孤立。悪口や無視が続き、精神的なダメージが大きくなり、ついには朝起きられなくなりました。
保護者が何度か学校と話し合いを持ちましたが、根本的な解決には至らず、不登校が続きました。
その後、心のケアを優先するためにスクールカウンセラーの元へ通うことになりました。カウンセリングでは、自分の気持ちを整理することができ、「自分が悪いわけではない」と思えるようになりました。
また、趣味だったイラストを活かしてオンラインで交流の場を持つようになり、少しずつ自己肯定感が回復。今はオンライン学習を活用しながら、高校進学を目指しています。
ポイント
・専門家の力を借りて、心のケアを優先する
・本人が安心できる環境を整える
まとめ
いじめによる不登校を経験したお子さんたちは、深い傷を負うことが多いですが、適切なサポートを受けることで、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していきます。
学校にこだわらず、フリースクールやカウンセリング、転校など、さまざまな選択肢を視野に入れながら、お子さんにとって最善の道を一緒に考えていくことが大切です。
大事なのは、「今すぐ解決しなければ」と焦らないこと。お子さんのペースに寄り添いながら、信頼できる大人がしっかり支えていくことが、未来への第一歩となるでしょう。
【出典一覧】
*出典1 文部科学省|令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
参考箇所:2 いじめ、4 小・中学校の長期欠席(不登校等)
*出典2 文部科学省|いじめ対策の推進について
参考箇所:文部科学省におけるいじめ対策について
*出典3 文部科学省|いじめのサイン発見シート
【監修者のコメント】
昨今はLINEやInstagramなどのSNS上で起こるいじめも少なくはないので、学校で面と向かっている時以外にも気を張らなくてはいけない状況がよくみられます。
昔は昔で、いじめへの認識の違いなどもあったでしょうし、その時代ごとのいじめの辛さがあると思われるため、安易に比較はできないものではあると考えられますが、学校にいるときでも、家にいるときでも、いじめが起きるというのは気が休まる時がないとも考えられるため、しんどいお子さんも少なくないことと思います。
ただし、いかなる時代のいじめであっても、いじめは肯定されるものではありません。しかし、いじめというものは残念ながら起きてしまうものでもあるかと思います。
だからこそ、いじめについては個人の問題だけに集約せずに、早期に気づいて対応することができるような体制を整えておくことも重要であると考えられます。いじめは個人の問題ではなく、集団の中で起きる問題として取り組む姿勢が大切です。
いじめ対策で重要なことは、「認識すること(Recognize)、対応すること(Respond)、報告すること(Report)」という3つのRがあるという考え方があります。この枠組みを中心に対応を考えていくことも重要です。
早期にいじめを認識するためにも、今回挙げられているようないじめの前兆とされるようなサインを小さなことでも見過ごさずにいることは大切です。この点については、多くの方も同意されるのではないかと思いますが、実際の生活の中では「される側にも色々問題があって」とか「いいから学校にいきなさい」「そんなことくらいで」という言葉が出てしまうようなことも少なくありません。
そのような言葉は、日頃の中では出てしまうこともあるかもしれません。実際にはそのお子さん側に何かきっかけとなるようなことはあるかもしれませんが、お子さん自身が自分の悩みや想いを大切にしてもらえているという関わりを意識することは大事にして欲しいと思います。
また「いじめ」と「からかい」の境界線は曖昧なところもありますが、お子さん自身も「いじめと言わないまでも他の子どもにからかわれる」という認識で、学校に行くことに困難を抱える子どもも少なくありません。からかいは、深刻なものにも発展しがちな非常に危険な火種でもあるかと思いますので、決して軽視するものではありません。
「そこまで深刻ではないからかい」というのは、子どもの中でもよく見られることですが、お子さんが特に敏感に反応して、結果として学校に行きたくないと思っている可能性は十分にあります。
そのような場合、まずはからかっている子どもに対して「反応しないこと」が推奨されます。からかい返したり、笑い飛ばしたりすることによって、からかいを逸らそうとするお子さんもいますが、からかわれることにとても悩んでいる子どももいます。
そのような場合には、バカにされることを無視するように勧めることがあります。挑発には乗らないように伝えることです。からかってくる子どもの多くは、相手からの反応に注目しているので、反応が得られなかった場合には、注意はよそに移っていくことが多いとされます。
カウンセリングなどの中では、からかいに対する台詞や対処法を考えるために、カウンセラー側がからかってくる子どもの役割を演じて、からかいに対するエクスポージャーを実施していくようなこともあります。
いじめによる不登校などの場合には、前兆に気づくこと、安全な状況の確保、具体的な対応策なども重要です。保護者や学校の大人など、自分の周りに誰か一人でも味方がいたり、わかってくれる人がいるということが、大きな支えになることも少なくないかと思いますので、お子さんの様子が気になるような場合には、声をかけてみてあげて欲しいところです。
参考文献など