突然「学校に行きたくない」と言い出したお子さんに、どのように対応すべきか悩んでいる保護者の方は多いのではないでしょうか?
不登校は、お子さんそれぞれにさまざまな要因が絡み合った複雑な理由があり、一概に原因を特定することは難しいのですが、家庭環境が一因となって いる場合もあります。
本記事では、不登校家庭に見られる傾向と、保護者の方が実践できる対応策についてお伝えします。
不登校になった小学生のうち5人に1人が家庭環境に要因
2022年10月に文部科学省が発表した小学校・中学校の子どもの不登校の要因を見ると、「親子の関わり方」が8.0%を占めており、家庭を要因とする「家庭の生活環境の急激な変化」「家庭内の不和」を含めると12.3%となっています。
さらに、小学生にいたっては、「親子の関わり方」が13.2%、家庭を要因とする「家庭の生活環境の急激な変化」「家庭内の不和」を含めると18.0%となり、不登校児童のうち約5人に1人が家庭環境や親の接し方が影響して不登校になっていることがわかります。
▲小学校・中学校の子どもの不登校の主な要因
しかし、一言で家庭環境と言ってもさまざまな状況があります。
今回は、実際に不登校になったお子さんの事例から、家庭環境に見られる傾向と、その対処法についてお伝えします。
ただし、もし家庭環境に見られる傾向にあなたの家庭が当てはまると感じても、「自分のせいで子どもが不登校になった」とご自身を責めないでください。
不登校の原因は複合的であり、理由が明確なことは稀だからです。
本記事で紹介する対策を参考に、お子さんへの声掛けを意識したり、専門機関に相談することで、少しでも問題解決のお役に立てていただければ幸いです。
どんな家庭の子どもが不登校になりやすい?実際のケースをご紹介
文部科学省による調査では、不登校の要因になりうる家庭環境は、次のように分類されています。
●親子の関わり方
●家庭の生活環境の急激な変化
●家庭内の不和
この3つについて、実際のケースを元に説明したいと思います。
親子の関わり方の問題① 子どもに無関心
不登校の要因として非常に多いのが、はっきりとした原因のない「無気力・不安」ですが、子どもに無関心な家庭で育った結果、「無気力」となり引きこもりになったお子さんの事例を紹介したいと思います。
小学4年生のAさんの家庭は両親ともに仕事で忙しく、ご飯は食卓に並べられた出来合いの惣菜などをAさんが1人で食べ、夜も1人で眠るという生活スタイルでした。
両親は学校の発表会や授業参観も欠席することが多く、休みの日もたまった家事で手一杯だったため、Aさんの話をゆっくり聞いてくれるような余裕はありません。
家のことを手伝っても「当たり前」とされ、テストで良い点をとったり絵画コンクールで賞をもらったりしても両親の反応は薄く、褒められる経験がほとんどありませんでした。
Aさんは、徐々に何事にもやる気がわかず、無気力になっていき、結局学校に行くこともできなくなってしまいました。
実は、Aさんの両親は「子どもに無関心」だという自覚がなく、自分たちは子どもの自主性を大切にしていると考えていました。しかし、お子さんの自主性への過剰な期待はお子さんに無関心であることと同じです。
お子さんに無関心な家庭では、お子さんの心は常に満たされていません。よって、自分の存在に対して否定的になってしまい、不登校へと繋がってしまうのです。
また、本人が親から関心を持ってもらっていないため、お子さん自身も人に対して無関心な大人へと成長します。最終的には人にだけでなく社会にまで関心を持たなくなり、不登校からひきこもりになるケースも少なくありません。
親子の関わり方の問題② 過保護に接しすぎている
小学5年生のBさんのお母さんはとても真面目な方で、子育てにも一生懸命取り組んでいました。
朝寝坊をしないか。
持ち物を用意できるか。
習い事に遅刻しないか。
本来であればBさんが自分で考え、行動すべきことを全てお母さんが先回りし、問題が起こらないように対処するという生活習慣となっており、お母さんはBさんよりも緊張感を持ってBさんの身の回りのことに取り組んでしまっていました。
過保護な親はお子さんがやるべきことを先回りして行うため、お子さんの自己解決能力が育ちにくくなります。親がいないと何もできない子どもにとって、自分1人で問題を解決しなくてはならない学校へは行きたくないという心理に繋がってしまうことがあります。
子どもにとっての「失敗」は、絶対にあってはならない「間違い」ではなく、これからの成長に欠かせない「経験」です。Bさんは経験を通して学ぶことができなかったため、何か少し難しいこと、ちょっとした失敗があると立ち向かうことも立ち直ることもできず、お母さんが守ってくれる安全な家に逃避するという結果になっていました。
家庭の生活環境の急激な変化によるストレス
両親の離婚や別居、近親者の死別など、お子さんが身近な人との別れを経験することは、大きなストレスとなります。
また、親の転勤などで引っ越しを余儀なくされる場合も、仲が良かった友人と会えなくなったり新しい学校に馴染めなかったりするなど、お子さんにとってストレスになることが多くあります。
その他、親の転職によって生活リズムが変わる場合も、親のストレスや不安をお子さんが敏感に感じ取って、間接的にストレスとなっているケースがあります。
生活環境の変化によるストレスは、お子さんにとって非常に強いストレスとなることが多いため、不安になったり落ち込んだりと不登校の要因になる可能性があります。
家庭内に不和があるケース
親と子の関係には問題がなくても、他の家族で不和を抱えているケースも、不登校につながることがあります。
中学2年生のCさんは、両親と祖父母と一緒に生活していましたが、祖父母とお母さんの仲が悪く、Cさんは日常的に家で双方の愚痴を聞かされていました。
Cさんにとってはお母さんも祖父母も大切な家族だったため、愚痴を聞かされる環境が大きなストレスとなって気持ちが疲弊し、学校へ行く気力までなくなってしまいました。
このように、両親の不仲や祖父母と親の不和、兄弟の不和など、家族内の不和を感じ取ったお子さんは、家が安心できる場所ではなくなることで無気力につながり、不登校になることがあります。
学校に行きたくない子どものために親ができること。家庭環境を改善する3つの方法
それでは、不登校の要因になりうる家庭環境を改善するために、保護者の方ができることを紹介します。
家庭環境を変えることは、配偶者や他の兄弟も関わるため、すぐに変えることは難しいと思いますが、根本的に不登校になりやすい環境が変わらなければ、1日や数日学校に行けたとしても、お子さんが再び不登校になる可能性は高いままです。
少しずつ改善することを意識し、できることから始めるだけでも、状況が改善する可能性は十分にあります。一つ一つ原因解消に取り組み、サポートしていきましょう。
家庭環境を改善する方法① 適切なコミュニケーションをとる
最初に子どもに無関心な家庭環境が不登校の原因になっているAさんのケースをご紹介しましたが、子どもに関心を寄せすぎてしまっている過保護な家庭も、また不登校の原因になってしまいます。
お子さんが主体的に動く前に、次のような声かけを毎日のように行っていないでしょうか?
「宿題は終わったの?」
「⚪︎⚪︎はカバンに入れたの?」
「⚪︎時に家を出ないと間に合わないよ!」
保護者の方が先回りしてお子さんの失敗を防ぐ会話は、お子さんに自分で先のことを考えて行動する機会を与えません。
お子さんを管理して指示通りに行動させる声かけでなく、お子さんが主体的に物事を考えて行動に移せる会話を意識することが大切です。
家庭は「学校」という社会に出る前に、人との関わり方や適切なコミュニケーションを学べる場になります。
親子は似ている部分もありますが、基本的には他人で、考え方や価値観はそれぞれ違います。その違いを認識したうえで、適切なコミュニケーションを取り続けることが、学校という社会に出たお子さんにとって、何より貴重な経験になるでしょう。
お子さんが不登校になった場合、親も子どももそれぞれで悩み、家庭環境が悪化することもありますが、不必要にご自身を責めないでください。まずはお子さんに対して、1人の人間として接し、適切な距離感でコミュニケーションをとっていくことが大切です。
また、適切なコミュニケーションが取れる家庭では、お子さんも「話を聞いてほしい」と思うようになります。まずはお子さんのどんなお話でも、興味を持って耳を傾け、共感してあげてください。
反対に、自分から話したがらない場合には無理に会話を続けようとせず、笑顔での声掛けをしていきましょう。日々の積み重ねからお子さんはあなたに安心感を抱き、自分の味方だと感じて自ら話し始めるはずです。心を開くまでに時間がかかるかもしれませんが、地道に続けていくことが重要です。
家庭環境を改善する方法② 家を安心できる居場所にする
お子さんにとって、家が居心地の良い場所であることが大切です。
お子さんが不必要なストレスを感じないよう、険悪な関係性の家族がいるのであれば当事者でしっかりと話し合い、意識的に雰囲気の良い環境を作っていきましょう。
また、保護者の方が子育てや仕事、人間関係などにストレスを抱えている場合も、無意識のうちに家庭の雰囲気を悪くしてしまう場合があります。あなたが今、何らかのストレスを感じているようでしたら、そのストレスを緩和、解消することから始めましょう。
子育ての悩みを抱えている場合は、家族や友人、または専門機関に話してみてはいかがでしょうか?もやもやとした気持ちを言葉にしたり、第三者からの視点によるアドバイスをもらったりすることで、ストレスの軽減につながる場合があります。
専門機関は、さまざまな事例から知識やノウハウを蓄積しているので、建設的な解決策を提案してくれることも多くあります。児童相談所や児童相談センター、発達障害支援センター、公的な相談窓口以外にも、本Webサイト「ツナグバ」のような不登校を支援するWebメディアなど、相談できる場所はたくさんあります。
家庭環境を改善する方法③ 子どもに成功体験を積ませ、自己肯定感を高める
お子さんに成功体験を積ませ、自己肯定感を高めることも不登校問題への改善方法の1つです。
自己肯定感とは「ありのままの自分を肯定する感覚」のことです。
他者と比較することなく、自分自身を認め尊重することで生まれる感覚であり、物事を前に進めるための原動力となります。
自分で自分のことを認められるお子さんは、言動が前向きで、些細なことに挫けにくくなります。ではどうすれば、自己肯定感が高まるのでしょうか?
人は何かに取り組んで結果が出たら達成感や喜びを感じ、さらに挑戦する意欲が出てきます。お子さんも、何らかの成功体験が達成感へと変わり、学校に対して前向きに考え始める可能性があります。家庭内でできる成功体験として、規則正しい生活ができた場合や家事の手伝いができたときには褒めて認めてあげることが大切です。
早起きができたとき →「早起きできてすごいね」
ご飯を完食したとき →「残さず食べて偉いね。作った甲斐があったよ、ありがとう」
挨拶できたとき →「ちゃんと挨拶できて偉いね」
親に褒められ、自己肯定感が高まったお子さんは、親を自分の味方だと信頼し、何かあったときに相談することが増えます。普段あまりお子さんを褒めてあげられていない方がいましたら、今日から実践してみてください。
まとめ
不登校になりやすい家庭には、無関心や過保護、または環境が劇的に変化していたり家族間の仲が悪かったりと、共通している場合があります。
家庭環境は親が作っていくものであり、子どもの力で変えていくことは難しいものです。まずはお子さんが安心して生活できる環境を作り、日々のコミュニケーションを大切にしていきましょう。
不登校にはさまざまな要因があり、家庭環境もその1つになりますが、はっきりとした原因があるケースは稀です。
家庭環境による要因に心当たりがある場合も、自分一人で悩みを抱え込まず、周囲の人や専門機関を頼りましょう。決して自分を不必要に責めることのないようにしてください。
学校に行けないお子さんが自分自身を責めている場合も同様です。「自分を責める必要はない。学校に行けなくても大丈夫」とお子さんに伝えてください。
そして、専門機関をはじめとした第三者を頼ることをためらわないでください。
【出典一覧】
*1 文部科学省|令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
参考箇所:小・中学校の長期欠席(不登校等)の状況
*2 不登校現象の家庭要因に対する一考察 :「学校への意味付け」に関わる文化的再生産
参考箇所:「語り」から見えてくるもの
*3 小児保健研究|不登校児を持つ親の自助グループ活動が母親の意識と子どもに及ぼす影響