滋賀県東近江市長のフリースクールをめぐる発言は何が問題だったのか?急増する不登校に今、社会が取り組むべきことは

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目次

滋賀県東近江市の小椋正清市長が10月17日、県首長会議でフリースクールへの支援について、「国家の根幹を崩す」「不登校になる大半の責任は親」などと発言したことが大きなニュースとなり、問題となっています。

本記事では、小椋市長の発言について、経緯や流れ、また、行政のフリースクール支援にどのような物議を醸したのかをお伝えします。

今回のニュースの概要について

10月17日に開かれた県首長会議で、小中学性の不登校対策として県が今年度中に策定予定の「しがの学びの保障プラン」の骨子案について議論されました。

骨子案では、小中学生の多様な学びの場所・居場所確保のため、フリースクールとの連携や、不登校特例校の研究などが盛り込まれていましたが、東近江市の小椋市長が波紋を呼ぶ発言を繰り返しました。

10月17日「フリースクール支援は国家の根幹を崩す」

文部科学省は2019年から、学校とフリースクールなどでの教育確保を求めており、今年3月には学校外にも多様な学びの場を整備していくことを通知しています。

そのような背景から策定中の骨子案に対して意見を求められた小椋市長は

「文科省がフリースクールの存在を認めてしまったことに愕然としている。本当に国家の根幹を崩してしまうことになりかねないぐらいの危機感を持っている」

と発言したほか、

「大半の善良な市民は、嫌がる子どもを無理して無理して、学校という枠組みの中に押し込んで、義務教育を受けさせようとしている」(*出典1)

などと話しました。

10月18日 不登校は「親の責任」

小椋市長は18日にもテレビ局の取材に対し、

「普通の国民市民は無理してでも学校へ行けと言っている。やらそうと努力している。そのボーダーラインにいる子が、フリースクールで楽しんでいる子どもたちを見たら、そっちに雪崩現象を起こす可能性がある。そういうことも予測しないといけない。そこの論議ができていない」

「義務教育を継続している部分、そこからはみ出てしまう。こっち(フリースクール)に教育資格を持つ先生を置いて、きちっと勉強をするならともかく」

「民間のフリースクールに通う親を支援しろでしょ?文科省。そこが無責任。国が間違っている」

「(不登校に関して)親の責任は大きい。それは私の感覚的なもの。経験則」(*出典2)

などと話しました。

10月20日「フリースクールは楽。必死で義務教育を受けている子が流れる」

県フリースクール等連絡協議会は19日、小椋市長宛てに抗議文を提出しましたが、その後の20日の取材に対し、

「国がいい加減な形で、制度とか形を十分作りもしないで、いきなり自治体にしてくれと言ってきたでしょ。そのことに対して批判した。だから、現にあるフリースクール、あるいは通っている子どもたち親たちを非難しているつもりはなかった」

「懸念されるのは、フリースクールは、まぁまぁ言ってみれば楽ですからね。親も楽だと思う。子どもが機嫌良くて。それでいいのかという。そうすると、必死で義務教育を受けさせている親たち子どもたちが、雪崩現象を起こすんじゃないか。そういう危機感を持っている」(*出典1)

と話しています。

フリースクールの運営者らが発言の撤回を求めるなど波紋を呼んでいましたが、24日の市議会で、小椋市長は「軽率な発言だった」と認めたうえで、国の不登校対策には問題があると改めて主張しました。

どのような点が物議を醸したのか?

発言内容をメディアが切り取ることで、より過激な印象になってしまったとは思いますが、不登校の要因や不登校家庭の悩み、不登校問題の現状を鑑みれば、小椋市長の発言は軽率だったと言わざるを得ません。

今回の発言に対して、ニュースのコメント欄等でも

「フリースクールや夜間学校など、学び方や学ぶ機会はいろいろあった方が多様な人材の育成につながる」

「いじめられて不登校になった子どももいる。それも親の責任なのか」

「発達障がい・知的障がいの特性のために学校に馴染めず不登校になる子も親の責任なのか」

など、否定的な意見が多く寄せられました。

ツナグバの考え

不登校のお子さんをお持ちの保護者や支援者に向けて情報発信を行っているツナグバとしても、今回の小椋市長の発言は撤回すべきと考えています。「親の責任」という言葉を真に受ける必要もありません。

不登校は大きな社会課題であることは間違いない

昨年度の不登校の児童生徒数が約29万9000人となり、10年連続で増加して過去最多となったことが先日大きく報道されました。

今、不登校は大きな社会問題となっています。約30万人の小中学生が学校に行けず、教育を十分に受けられていないことに課題があります。

そんな状況の社会で、無理をしてでもみんな学校に通うべきという小椋市長の主張は、無理があるといえるでしょう。

学校に行かなくていいと思って不登校になっているお子さんはほとんどおらず、多くのお子さんは「行かなければいけないと思っているのに行けない」状況に苦しんでいるのです。

「不登校の責任の大半が親にある」というのは間違っている

また、「大半の善良な市民は、嫌がる子供を無理して無理して、学校という枠組みの中に押し込んで、義務教育を受けさそうとしている」という、フリースクールに通わせている保護者の方は善良な市民ではないと思われる発言や「不登校になる大半の責任は親にある」という発言についても、問題だと考えます。

起立性調節障がいにより、朝どうしても起きられないお子さんがいることや、先生・友人間での人間関係のトラブルが不登校の原因となっているケースが多いことなど、不登校問題の実態を知らないと思われます。

不登校の要因はお子さんによって本当にさまざまです。その責任の大半を親に問う方向では、現状は改善されないでしょう。

フリースクールに通えば良いというわけではない

しかし、ツナグバとしても、学校が嫌ならとにかくフリースクールに通学すれば良いと考えているわけではありません。

フリースクールはどんな教育機関であるべきか、フリースクール以外の選択肢はどのように整えていくべきなのか、これからの教育の在り方を、行政・地域・民間が一緒に議論を継続していかなければ、子どもたちにとってのより良い教育環境は実現しないと考えています。

また、文部科学省が掲げる「誰一人取り残されない学び」(*出典3)について、支援の具体的な基準が示されていないことも課題です。

行政の対応も、フリースクールなどの授業料を支援する自治体がある一方、「根拠が見出せない」と支援を見送るところもあり、対応が分かれているのが現状です。

【まとめ】不登校の支援に必要なのは分断ではなく協力

今回の議論では、「学校」と「フリースクール」は全くの別物とされ、フリースクールの存在が学校の運営を脅かすというようなニュアンスで話が進みました。

学校とフリースクールは本当に別物なのでしょうか?

お子さんが勉強と集団生活を学ぶ場であるという点は、学校もフリースクールも同じはずです。

それにも関わらず、なぜ不登校が増え続けているのか、なぜフリースクールなど学校以外の「居場所」が選ばれるようになってきたのか、私たちはその点を改めて考えていく必要があります。

「誰一人取り残されない学び」を実現するためには、行政だけでなく、学校、地域社会、家庭、NPO、フリースクールなどの関係者が、相互に連携しながら子どもたちのためにそれぞれの持ち場で取り組みを進めることが必須です。

今回のニュースが、学校の在り方、フリースクールの在り方を行政・地域・民間で模索していくきっかけになればいいと思います。

【出典一覧】

*出典1 「フリースクール国家の根幹崩す」発言に批判集まる 市長を直撃取材(2023年10月20日)【テレビ朝日・ANNnews】

*出典2 フリースクール側が抗議文を提出 不登校めぐる市長の発言が波紋「フリースクール支援は国家の根幹を崩す」小椋正清東近江市長【関西テレビ・newsランナー】

*出典3 文部科学省「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)

参考ライター箇所:つながりのイメージ

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