不登校とひきこもりの関係性は?原因や対応の注意点について解説

不登校児童がそのままひきこもりになってしまうケースについて、厚生労働省によると、18.3%であるとの調査結果が出ています。 何らかの要因で不登校状態になった結果、日常生活の外出にも影響が出てしまう人が一定数いるようです。 今回は、不登校とひきこもりの関係について解説していきます。

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監修:中村洸太

監修:中村洸太

博士(ヒューマン・ケア科学)、臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士、池袋心理教育研究所代表、駿河台大学・聖学院大学・目白大学・ルーテル学院大学兼任講師 大学院修了後、心療内科・精神科クリニックや大学病院での勤務を経て、現在は、働くひとやその組織のメンタルヘルス支援などに関わる一方で、スクールカウンセラーとしても活動。小学校から高校生まで幅広く関わる。その他に、性的マイノリティのメンタルヘルス支援や弁護士向けのメンタルヘルス支援、オンラインを用いた臨床活動の研究や実践などを行う。

目次

不登校児童がそのままひきこもりになってしまうケースについて、厚生労働省によると、18.3%であるとの調査結果が出ています。

何らかの要因で不登校状態になった結果、日常生活の外出にも影響が出てしまう人が一定数いるようです。

今回は、不登校とひきこもりの関係について解説していきます。

不登校とひきこもりの定義

まずは不登校とひきこもりの定義について確認していきたいと思います。

それぞれについて、文部科学省と厚生労働省が定義をしています。

不登校の定義

文部科学省は、不登校を以下のように定義しています。

何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席したもののうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの

引用:文部科学省|不登校の現状に関する認識

したがって、年間の欠席日数が29日以下であれば、不登校の定義外です。

とはいえ「29日欠席を続けている人」と「30日欠席を続けている人」は同じように困っていることもあるかと思います。

あくまで定義の上での便宜上の側面があることは否めないかもしれません。つまり、統計上の不登校の数の裏には「29日以下の欠席者がいる」ということも視点としては重要なことかと考えられます。

不登校の定義についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

何日休んだら不登校?不登校の定義や相談先について紹介

(*出典1)文部科学省|不登校の現状に関する認識

ひきこもりの定義

厚生労働省によると、ひきこもりの定義は以下のように明記されています。

様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。

なお,ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが,実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。

引用:厚生労働省|ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン

また、NPO法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会(※KHJ=Kazoku・Hikikomori・Japan)の2022年の定義では、支援が望ましいひきこもりの状態像について、概ね自宅などにとどまり社会的に孤立していることによって、本人への支援が必要と判断される程度に生活上の困難を有している状態を指すとされています。

KHJの定義にあるように「孤立」「生活上の困難を有している状態」というところも大事なポイントかと考えられます。

ひきこもりとは、お子さんから成人まで広い年代において起きる現象です。

ひきこもりは必ずしも問題行動ではなく、様々な葛藤の兆候であり、場合によっては様々な疾患が絡んでいることもあるようです。中には、自分らしく生きる意欲を失っている場合も少なくありません。

厚生労働省のガイドラインでは、ひきこもりのお子さんに対する対応や支援を考える際に、支援する側は「ひきこもり状態に在る子どもや青年がすべて社会的支援や治療を必要としているわけではない」という点に留意すべきと明示しています。

例として、慢性的な身体疾患によりやむを得ず自宅に留まる事例や、家族がその生き方を受容している場合などが上げられています。

(*出典2)厚生労働省|ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン

また、長期間に渡るひきこもりにより、心身に悪影響を及ぼす恐れや、経済的な困窮などにつながる可能性があることに留意が必要です。特に、 生活上の困難とは、学業的、職業的、対人的、または、他の重要な領域における困難を意味しています。また、本人が自分らしく生きていく上で心理的、精神的苦痛を感じていることも含みます。

世代については、以下のような報告もあり、ひきこもりの高齢化が進んでいるともいわれます。

  • 15歳から39歳54万人(内閣府政策統括官,2016)
  • 40歳から64歳61万人(内閣府政策統括官,2019)

 ※15歳から64歳の総計は115万人

親が80代、子が50代を迎えたまま孤立し、生きることに行き詰まるなどして、これまで見えづらかった地域課題である「8050問題」が各地で噴出しています

この8050問題が社会的課題となっているといわれます。ひきこもりのきっかけや原因は様々ですが、問題の本質にあるのは孤立であるとされます。家族も本人も世間との関係を絶ってしまい、困っていても、SOSが出せない状況になっている場合が多いとされています。そうした側面もあることから、ひきこもりは社会全体の問題であり、地域課題でもあるとされています。

(*出典3)境泉洋,KHJ全国ひきこもり家族会連合会 | ひきこもりの定義や本人を エンパワメントする家族支援の概要

ひきこもりの数は増えている?

2018年度の内閣府調査によると、広義のひきこもり群の出現率は1.45%であり、推計数は61.3万人とされており、2015年度に比べ推計数が増加傾向ということでした。

(*出典4)厚生労働省|ひきこもり支援施策について

ひきこもりの原因とは?

内閣府の調査結果として、ひきこもりの状態になったきっかけについて、以下のデータが公開されていました。

  1. 不登校(小学校・中学校・高校):9人(18.3%)
  2. 職場になじめなかった:9人(18.3%)
  3. 就職活動がうまくいかなかった:8人(16.3%)
  4. 人間関係がうまくいかなかった:8人(16.3%)
  5. 病気:7人(14.3%)
  6. 受検に失敗した(高校・大学):3人(6.1%)
  7. 妊娠した:0人(0%)
  8. その他:15人
  9. 無回答:1人

(*出典5)厚生労働省|図表1-3-2 ひきこもりになったきっかけ

しかし、統計の回答数をみると必ずしもこの回答内容がひきこもりの代表値と言えるかどうかは悩ましいものもありますので、まずは参考的な意見であると考えることも大事かもしれません。

不登校がきっかけでひきこもりになることがある

双方の定義から考えると、30日間学校に行かないと定義される不登校よりも、ひきこもりの方が6カ月と長期間です。上記のひきこもりのきっかけにもあがっているように、不登校をきっかけに自宅外での活動が減っていき、そのままひきこもりになるケースもあるといえるでしょう。

内閣府の調査を見ると、不登校をきっかけとしてひきこもりになった人の割合は約18.3%といわれます。

他の原因もあるため、必ずしも不登校がひきこもりに直結するとは言い切れないでしょう。

そのため現在、不登校・不登校傾向がある場合でも、ひきこもりになると極端に心配する必要はないと思われます。しかし、家族としては「このまま休み続けてひきこもりになったら将来大丈夫なのか」という考えが頭を過ぎる方も少なくはないかと思います。

不登校以外のきっかけでは、「人間関係がうまくいかなかった」「就職活動がうまくいかなかった」「職場になじめなかった」など、その時の悩みが要因となることが一定数あるように見受けられます。

不登校にしろ、ひきこもりにしろ、理由もなくその状態になっているわけではなく、「ひきこもらなければきっと死んでいた。 ひきこもらざるをえなかった」と振り返る方もいます。

(*出典5)厚生労働省|図表1-3-2 ひきこもりになったきっかけ

ひきこもりのお子さんへの対応方法について

冒頭の繰り返しにはなりますが、まずはお子さん(とその家族)がひきこもり状態であることに対する「支援を必要としているか」ということを確認する必要があります。

身体的・精神的な疾患により、やむを得ず自宅に留まっているケースでは、無理やり支援を行うことが負担になってしまうでしょう。前提として、本人に再び外出して活動したい意思があるのかといった点を確認すべく、コミュニケーションを取れる関係性を築くのが第一といえると思います。

ひきこもりの問題としては、本人または家族が「孤立」していくことが挙げられます。家族が孤立と不安から脱却し、安心や意欲、今後の展望を取り戻すようなことも重要です。

ひきこもりについて必要な知識を得ることや、子どもへの関わり方を学んでいくことも大切ですが、家族だけでそれを担おうとして、どんどん苦しくなってしまったり、より孤立を強くすることもございます。家族での抱え込みを長期化させないことも大事です。

そのためにも、互助やピアサポートを通して、家族が回復をするような機会も大切にしていきたいところです。その中で生まれた成功体験や失敗体験から、自分自身や家族を取り戻していき、自分らしく生きることを育てていけるように向かっていきたいところです。

こうした点を頭に置きつつ、ここからは、ひきこもりに関する支援が必要な場合における対応について解説していきます。

なおここで解説する内容については、以下を参考にしております。

(*出典6)厚生労働省|ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント集

(*出典7)富山県|ひきこもりと向き合う~家族へのヒント~

①信じて長い目で対応する

すぐに解決に向けて行動したり、外出を促すのではなく、まずは冷静に受け止めて本人の意思と行動を尊重することが重要です。

ひきこもりの背景には、成長過程でのつまづきや、性格の問題、挫折経験、精神的な疾患など様々なものがあるようです。

何が要因か特定できていない段階から行動してしまうと、かえってひきこもりの状況を深刻化させてしまう可能性もあるかもしれません。

まずはお子さんが安心して休めるよう、冷静に受け止めてあげるのがいいでしょう。まずは、焦らないで、腰を据えるということが大切です。しかし、安心して休むことと、家族が本人と関わりを遮断することは同意ではありません。

②本人の言うことをよく聴く

本人が心や身体を休めている間に、本人との関わり方も一度振り返ってみると良いかと思います。家庭内でお子さんが話をしてくれる場合、本人の話を遮って反論したり、意見や説得をすることは控えるのがいいでしょう。

しかし、「子どもが全く話をしてくれない」という声は少なくありません。そんな時は今までの会話を振り返ってみましょう。子どもが話しかけてきたり何かをしたいと話してきた時に「でもね」と否定することや「〜しなくちゃいけない」「しっかりしなくちゃいけない」と、否定や義務が多くなっていなかったでしょうか。

もちろん、子どもの言うことをどんなことでも、聴き入れて肯定しようという話ではありません。もし、子どもの意見について助言をするときでも「あなたが◯◯と考えていることはわかったよ。その時には、△△なことが私は心配なんだけど、あなたはどう思う?」など、まずは自分の意見を受け止めてくれたということや、その上で欠けていた視点について考える余地がもらえた、など、自分の主体性を尊重された経験というのはお子さんにとっては重要です。子どものことを心配して先回りして答えを用意してくださる方は善意も多いと思うのですが、その善意が子ども自身の意見や考えを押し込めてしまうこともあることは覚えておきたいところです。

そのため、普段意識していないと、「聴く」だけに集中するということは意外と難しいことかもしれません。また、いつも上記のように関わることは難しいことも多いでしょう。今日は「聴くに徹する」と自分の中でモードの変化を意識しておくことも大事かもしれません。

保護者がしっかりと聴く態度を取ることで、お子さんとしては「受け止めてもらえる」「見捨てられることはない」など安心したり、実感することに繋がります。

③他愛ないコミュニケーションを取る

誰でもいいので会話する、部屋の前でなんでもいいので会話するなどでコミュニケーションを取ることが重要です。

その際、「本人の気持ちを聞く」「外出を促す」といったことは奨励されていません。プレッシャーになるようなことは会話の中でも控えるのが望ましいようです。好きな食べ物の話や、見たいテレビ番組や動画、今日のご飯を何にするか、どんなゲームに最近ハマっているのか、そういった雑談ができることはまずは大切な基盤です。

家庭で過ごすことを、本人が安心・安全だと認識できるよう、家族も信じて待つスタンスが大切といえるでしょう。

④専門機関に支援を求める

先ほど述べたように、本人や家族だけでは冷静に状況を受け止めて対応することが難しいこともあるでしょう。時には孤立に繋がってしまったり、家庭内での暴力などに繋がっている場合も少なくありません。

そんな時は、信頼できる専門機関に支援を求めるのもひとつです。

専門機関を利用した場合で、改善に繋がらなかった具体例として、以下のようなケースもあるようですので、留意が必要です。

・本人が自立することを望み他の関係機関につなげたが、新しい環境を負担に思い再びひきこもり状態になった。 

・ひきこもりの状態である他に、生活が困窮している、親の体調が良くないなど、様々な課題がある。 

引用:厚生労働省|ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント集 

また、​​先ほど定義でご紹介したKHJは、日本で唯一の全国組織の家族会(当事者団体)として活動をしています。KHJは、ひきこもりを抱えた家族・本人が社会的に孤立しないよう、全国の家族会と連携し、行政に働きかけながら、誰もが希望を持てる社会の実現を目指している団体です。

情報発信なども積極的に活動されているので、まずは情報を整理したいという方は以下のWebサイトをご参照ください。

KHJ全国ひきこもり家族会連合会

【まとめ】

内閣府のデータによると不登校をきっかけにひきこもりとなった人の割合は、約18.3%です。

不登校とひきこもりには一定の関係があるとはいえ、現在不登校・不登校傾向にあるからといって、いきなりひきこもりの心配もする必要はないかもしれません。

不登校とひきこもりの対応について共通するのは、どちらも「お子さんを信じて待つ。受け止める。」といった点です。

不登校傾向が見えた段階で、将来や進路に不安を覚えることはあるとは思いますが、はじめはお子さんが心身を休める時間と考えて冷静に受け止めましょう。

【出典一覧】

*1 文部科学省|不登校の現状に関する認識
参考箇所:不登校とひきこもりの定義

*2 厚生労働省|ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン
参考箇所:不登校とひきこもりの定義

*3 境泉洋,KHJ全国ひきこもり家族会連合会 | ひきこもりの定義や本人を エンパワメントする家族支援の概要
参考箇所:ひきこもりの定義、不登校がきっかけでひきこもりになることがあるなど

*4 厚生労働省|ひきこもり支援施策について
参考箇所:ひきこもりの数は増えている?

*5 厚生労働省|図表1-3-2 ひきこもりになったきっかけ
参考箇所:ひきこもりの原因とは?

*6 厚生労働省|ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント集
参考箇所:ひきこもりのお子さんへの対応方法について

*7 富山県|ひきこもりと向き合う~家族へのヒント~
参考箇所:ひきこもりのお子さんへの対応方法について

【監修者コメント】

不登校の状態にある際に、お子さんから「このままの状態が続いたらどうなるんだろう」という漠然とした想いや、保護者の方から「このままひきこもりになったらどうしよう」という声があがることは少なくはないと思います。

ひきこもりと不登校の違いについては、主には「日数」「年齢」「社会参加の有無」などが考えられます。不登校は小学生〜高校生において使われますが、ひきこもりは全年齢が対象です。また、不登校については「社会参加の有無」については触れられていません。

したがって、不登校の状態にあっても、習い事をしているとか、友達との交流があれば、ひきこもりの定義からは外れます。その意味で「社会参加」という点が持つ重要さを考えさせられます。

今回のテーマはひきこもりでしたが、記事の中にもありますようにひきこもりについては、「孤立」「困難を抱えている」ということがポイントとなります。本人や家族が社会から隔離されたような状況になってしまって、孤立が強まり、さらに家族が閉鎖的になっていくという悪循環に陥ってしまっていることも少なくありません。

中には精神疾患が関連していることなどもあり、専門家のサポートが必要なことも少なくありません。ひきこもりの問題は、家族だけでの抱え込みが、結果として自分たちを苦しめているようなことも少なくはありません。その意味で、専門家をはじめとして、家族以外との繋がりは大切にしたいところです。

不登校と同様にひきこもりにも様々な背景が考えられるので、仮に本人が家から外に出たとしても、多大なる苦痛や我慢の上に成り立っているのだとしたら、果たしてそれが解決と呼べるかというと悩ましいこともあります。

何を持って「ひきこもりの解決とするか」については、社会参加の有無やそれが継続できているかという客観的な指標もありますが、個々によって解決した際の状態は異なります。

専門家につながるということには「解決する」ということも求められるものではありますが、どうなることがこの場合の解決なのかを一緒に探っていったり、その過程におけるしんどさや先の見えなさをいかに共有しながら抱えていけるようにするかという点も大事ではあるかと思います。

ひきこもりに関する参考図書

CRAFTひきこもりの家族支援ワークブック[改訂第二版]ー共に生きるために家族ができること

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